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国際大学グローバル・
コミュニケーション・センター所長
国際大学副理事長
宮原 明

国際大学グローバル・
コミュニケーション・センター主幹研究員
イノベーション行動科学プロジェクトリーダー
野村 恭彦
宮原 GLOCOMは90年代からインターネット関連をはじめ、情報・通信政策に対するさまざまな提言を行ってきました。その中で21世紀は高度情報化社会となるが、我々はさらに、情報が飛び交う社会から知識が流通する社会になるべきではないかと考えてきました。最も早く情報通信が活用され、機能し始めたのは金融分野ですが、現在は混乱状態を迎えています。しかし、このトンネルを通り抜けたときに、我々が想像していた21世紀の知識社会が到来するのではないかと考えています。
野村 そうですね。私たちがナレッジに取り組み始めたとき、誰もが「ITによって仕事のやり方が劇的に改善できる」と信じていました。しかし、その後の実践と研究を通じて、ナレッジは情報だけではなく、働き方やコミュニケーションの仕方にかかわるものであり、人間の議論が本質なのだと気づいたのです。さらにナレッジの研究は、実際には組織の停滞や閉塞感をいかに超えるか、というテーマであり、組織の活性化のためにはイノベーションが必要であることが見えてきました。より良い社会を実現するためにイノベーションが必要なのはもちろんですが、「我々は何のために働いているのか」を突き詰めていったときに、成長や自己超越の機会としてのイノベーションを考え始めたのです。さらにそのイノベーションは、会社の戦略として「やらされる」ものではなく、一人ひとりの「こうしたい」という思いを原点とするものであり、人の本来の創造性を生かしたものであるべきだと考え、これを生み出す行動に着目したのが、イノベーション行動科学への取り組みです。

宮原 イノベーションは何と言っても人が作り出すものです。人は、「快」の状態にあるときに、活性化して普段とは違う大きな力を出せるという脳の機能を備えています。チームで連鎖したときにはさらに大きな力となる。イノベーションでは、プロセスの原点にリーダーや知恵者、思いを持つ人がいて、そのイマジネーションが周囲との対話により、みんなの「おもしろい」という思いとなって、形となり、イノベーションにつながる。そこで人が生き生きと考え行動するためは、企業の「目標」や「戦略」より、人の「夢」、「希望」といったもののほうがふさわしい。また、企業の中で考える範囲は想像する以上に狭く、社会や自然の方が格段に大きな広がりを持っています。これらを感じ、想像する感度は会社の中ではなく、外で培った、個人が持っているもの。個が生き生きとしないと感度は上がらないのですね。
野村 言われましたように、イノベーションが生まれるところには、快を感じる仕組み、外との関係を開く仕組み、個人が社会とつながる仕組みがあります。そこでイノベーションの確率を高めていくためにはそれらの仕組みを解析する科学が必要なのです。イノベーションの実現には、チャレンジへのモチベーションや関係者を効果的にサポートするインフォーマルな活動が必要ですが、現在はそれを評価するシステムがありません。イノベーションを実現するために、これらを目に見える要素にすることがイノベーション行動科学の目的の一つです。さらに、生産性の概念を変え、我々は「革新生産性」と呼んでいますが、変化に気づいて提案・決定・実行するまでの革新のスピードを生産性として求めることも目的になります。これらを科学として把握し、広く応用できたら、我々の仕事はもっと楽しくなり、会社はもっと面白くなるのではないでしょうか。

野村 企業の経営理念にはよく「我々はこういう社会に役立つために、このようにして貢献します」とありますが、まさに、この経営理念にあった行動こそが、「イノベーション行動」なのです。それなのに、今の経営のスタンダードは、抽象的な経営理念を具体的、数値的な戦略目標に変換し、この分かりやすい数値目標ばかりを管理して進めていきます。経営理念をそのまま行動に移すとはどういうことなのか、ということをを方法論として示すことがイノベーション行動科学の目的だとも言えます。これは、目標管理型のマネジメントに対するアンチテーゼでもあるのです。
宮原 確かに、企業は理念や戦略の実現のために目標を立てますが、現場にブレークダウンして落としていくと、どんどん小さくなっていって、現場で考える範囲が狭まり、結果としてイノベーションには至らない。それよりも、一番元となる概念は広く捉えられるべきなのでしょう。経営の目標値を目指す際に、トップ、リーダーはそれが何のための目標なのか、元へ立ち戻って伝えておくべきです。その表現は、人の夢、希望、あるいは社会性・自然性を語り、それと企業活動のつながりを納得させるものでなくてはなりません。そうすると、現場では広い目的に立ち返って工夫や知恵、多様な角度のアプローチが生まれるはずです。
野村 人間は脳の95%の力を使っていないという話がありますが、一つの仕事だけをずっとやっていたら、脳の大半は眠ったままです。これを行っているのは何のためだと知っていれば、アイデアを思いついたときにほかの部門と一緒になって、自分の仕事を超えて取り組めるようになります。だから、仕事の80%は目標値で管理したとしても、残りの20%は管轄外として、さまざまな人が集まって活動できるような柔軟な仕組みとすることも重要でしょう。
宮原 自らの範囲を超えることは、苦労を背負うことでもあるのですが、それもいいと思えるのは、人から面白いと言われたり、喜んでくれたり、誉めてくれたという社会性があるからです。それで快い状態が生まれ、活性化してさまざまな知恵が出、新しい事業や仕組みにつなげていけるのですね。

野村 GLOCOMは情報社会の発展に寄与してきた研究機関ですが、情報社会の発展につれ、対面コミュニケーションが減るといった負の側面も見えてきました。これらの負の側面を補うものがイノベーション行動だと考えています。これはGLOCOMが唱えてきた情報社会の考え方と補完的な関係となり、真の知識社会をつくっていくための優れた組み合わせとなるはずです。さらに、技術のイノベーションで情報社会としての進化を進めるだけでなく、現実の社会が抱える困難な課題に取り組むソーシャルイノベーションにもっと目を向けていくべきだと思います。社会的課題を解くための知識を開発していくのも、GLOCOMが取り組むべきもう一つのテーマではないかと思います。
宮原 国際大学は、日本の経済社会におけるリーダーの育成のために、ビジネス分野にとどまらず、広く地域や文化の交流を実現することが必要だとして創設されました。GLOCOMはその将来へのメッセージをつくるための研究所として始まり、情報通信だけではなく、経済論、産業資本論から情報資本論へと取り組んできた経緯があります。インターネットが普及し、21世紀となって、改めて人材育成の将来のメッセージを求めたときに、人間というところに問題が戻ってきています。人の行動に着目するイノベーション行動科学は、その文脈からもGLOCOMが積極的に開拓していくべき分野だと考えています。

2009年6月
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