【2008年度プラカデミア・サロン for Social Innovation 開催概要】
社会イノベーションを促進するために必須な要素を導きだすことを目的に、プラカデミアサロンを開催した。本サロンは、営利セクターと非営利セクター双方の視点からアプローチすること、また、社会イノベーションを起こす担い手として期待されている「社会起業家」をキーワードとし、彼らの活躍する分野、手法、思想を分析することで社会イノベーションを解明できないだろうか、という仮説のもとに進めた。
サロンの構成は、実践と研究は不可分という視点にたって、2部構成とした。各回設定したテーマに沿った英文論文の紹介と「イノベーション行動の哲学」と題した実務者の話を組み合わせた。さらに、「社会の課題とビジネスをつなぐ」と題して参加希望者とともに話し合う対話を試みた。あわせて、本サロンは、社会、ビジネス、そして個人がどう変革の時代に自らを置くべきかを具体的に考える契機となることも意図して企画実施した。
なお、ここでは、社会イノベーションとは、これまでと異なる視点をもって社会的価値を認識、あるいは創造し、その概念に基づく新たなサービスや商品を普及するプロセスだとした。社会イノベーションは、成熟した市民市民社会のもとに成り立つと考えている。
【第1回】 2008年5月19日
テーマ:グローバル・エコノミーと社会起業家(1)
進行:服部篤子研究員
■論文紹介
Roger L. Martin and Sally Osberg, (2007), Social Entrepreneurship; the case for definition, Stanford Social Innovation Review 2007 Spring
John A. Quelch and David Chen, (2008), Marketing the $100 Laptop, Harvard Business School
まず、社会起業家精神の概念をつかむために、2本の論文を用いた。
1つは、定義を明らかにする論文「社会起業家精神:事例から定義を導く」をとりあげた。
一般に、社会起業家とは、社会の課題解決を第一目的として事業を行い、社会イノベーションを起こしうる人々と言える。しかし、この定義は、ビジネスセクターにおいても起業家の存在意義に社会性を見出すことができ、社会起業家と一般の起業家との相違が不明瞭だという指摘をうけてきた。そこで、社会起業家と起業家の事例を用いて概念を比較しながら、社会起業家精神の特徴を提示している本論文を用いることとした。
本論文では、「社会起業家は、アイデア、直接行動、創造力、勇気と不屈の精神をもって、社会の不均衡に対して新たな安定した均衡状態をつくることを目指している」と定義づけていた通り、社会の不均衡を是正することが、社会起業家の役割だと主張した。
2つは、社会イノベーションの具体的な事例を提示することを目的に、途上国の子どもの教育支援に、インターネットとマルチメディア機能を搭載したPCを開発するプロジェクトであるOLPC:One Laptop Per ChildプロジェクトのHBSケーススタディ「100ドルラップトップパソコンの販売」を紹介した。MITメディアラボの共同設立者であるニコラス・ネグロポンテの信頼と知名度による寄付と多くの企業から技術提供を受けたものの、利害関係が複雑化し社会事業の課題がみえてきた事例である。
社会事業における成功の概念が一般のビジネスと異なる点、社会事業と通常のビジネスが競合する現状について認識することを意図した。さらに、自らが、社会事業を立ち上げるとしたらどうするのか、意見交換することを目指した。
■ゲストとの対話
ゲストの選出にあたって、社会起業家は、社会セクターのみならず、ビジネスセクターにおいても活躍していること、むしろ、ビジネスセクターに必要な人材である点を検討することを意図した。また、対象となる「社会」を福祉、環境、教育など準公共財のみならず、現在の社会全般において、課題を認識することに意義を見出した。
そこで、初回は、中多広志氏が、広告、メディアに対してこれまでの偏った利益配分に問題意識をもち、新たな事業展開に挑戦している点に着目した。社会起業家精神をもって事業に取り組む際に、どのような考え方に基づいているのか、行動科学を分析することを目指した。
中多広志氏(吉本興業株式会社執行役員CFO&株式会社ベルロックメディア代表取締役)
社会には、「不均衡(不平等)を前提としてある社会に、均衡を提供しようとするDNAがある」点を指摘し、社会起業家が多く存在する可能性を語った。均衡を提供する際に、「正の循環」つまり、キャッシュフローを考えることや表現の仕方も重要であり、想いだけでは持続可能ではない一方で、「想いには力がある」と語った。また、「法人は、自然人が基本要素である。その要素と要素を結ぶものである。自然人の一人である代表の明確なベクトルが必要。そのベクトルを間違わなければ、法人としてのベクトルも間違うはずがない。法人は、情報処理体であり、そのベクトルを維持する努力が必要」と締めくくった。
(服部篤子研究員)



