研究成果

2008年度 プラカデミア・サロン for Social Innovation 第8回 「社会性と技術 医療業界の新たなモデル」

2009年5月28日

【第8回】 2009年1月21日
テーマ:社会性と技術 医療業界の新たなモデル
進行:服部篤子研究員

■論文紹介
Mair, J.(2005), A new model for the pharmaceutical industry: The Institute of One World Health, IESE business School of the Navara University
 「製薬業界の新しいモデル:ワンワールドヘルス」

 ワンワールドヘルス(以下OWH)は、米国で最初の非営利の薬品企業である。一般の製薬企業との違いは、資金調達と目的・ミッションにある。欧米日が独占する4兆ドル(2003年)を超える市場は、収益性が高い一方、先進国と貧窮国に薬品入手の格差が高い特徴がある。そこで、ドクターであるビクトリア・ヘイルは、この世界の「不均衡」を認識し、途上国の感染病に苦しむ人々に、安全で、効果的で、使ってもらえる、新薬を開発することをミッションに2001年にOWHを設立した。
 多くの科学者の賛同を受けて、開発アイデアをもらう、特許放棄を得るなどプロボノによるナレッジの寄付がOWHを支えてきた。さらに、公共セクターを巻き込み、メリンダ&ゲイツ財団など大口の助成を得ることで急成長し、途上国への影響力は計り知れないものとなった。
 しかし、近況をみると、2007年CEOを降りるなど、社会セクターの急成長する組織のマネジメントの難しさを語っている。助成金には事業費にかかる人件費は使えるが、運営に関わる人件費が使えないなど使途制限があり、一人の活動量に大幅に負担をかけるものとなる、という非営利組織の典型的な運営の特徴がここにもあらわれた形となる。収益モデルをどう構築していくか、依然、米国発の挑戦は続いている。

■ゲストとの対話
所源亮氏(アリジェン製薬株式会社 代表取締役社長)
 アリジェン製薬は、大学の研究者や委託研究所をネットワークして、感染症の医薬品を開発する2001年設立したバイオベンチャーである。
 論文にみたOWHと類似したミッションをもち、事業として成功させている日本のモデルを紹介し、社会イノベーションの考え方、プロセスを考えることを目的とした。
 所さんは、これまで複数の企業経営を行い、21世紀のイノベーションの目的は、「生命の継続を目指す」ことである、と説いた。旧型のイノベーションは、成長を支える考え方をもち、成長そのものを問われる時代に意味をなすのか、と問題提起した。

 アリジェン製薬は、資金面、マネジメント面に特徴をもつ。50億円以上もの資本を集めるなど、バイオベンチャーの中でもトップクラスである点、一般に開発責任者がトップにあるヒエラルキー型組織ではなく、開発者は水平型のポジションにあり、責任者が彼らの下に位置づけられる組織体系をもつ、開発過程においてアイデアが勝負であるフェーズ1に特化し、長期にわたって開発をし続けるリスクをもたない点などである。
 2006年、アフリカ睡眠病、という途上国の見捨てられた病気(OWHが取り組む対象でもある)病気の1つに対して、治療薬を開発して普及させるjHAT計画をたてた。成果に対して金銭的対価を求めるものではなく、リターンは開発者への認識(Recognition)だとする、CSR創薬といえる活動である。その根底には、日本発の技術で開発した医薬品を世界に広めることを目標にしている。薬が流布された後の開発について責任をもたないと薬の開発はできない、と言う。社会事業と営利企業を両立できること、そのために哲学を持つ必要があることを説明した。

(服部篤子研究員)